今回のブログは、手術の画像がありますので、苦手な方はお気をつけください。
昨年の秋、もうすぐ11歳になる柴犬の女の子が来院しました。近所のお店で看板犬としてお客さんからも可愛がられている子です。
お話を伺うと、嘔吐があって食欲や元気が落ちているとのこと。普段の様子からは考えられないことで、年のせいかしらと心配されていました。ところが、身体検査をしていくと、お尻にベチャッとしたものが少し付いています。よく見てみると、それは陰部(膣)からの膿でした。
そこで飼い主さんと相談をして詳しく検査させてもらったところ、やはり子宮や卵巣に病気がありそうです。レントゲンの写真はちょっと分かりにくいかもしれませんが、よく見てみると下腹部に太いソーセージのようなものが見えると思います。また、エコーの写真では黒く見える部分が病的な子宮です。本来なら子宮はエコーではっきり分かるほど太くないので、これは子宮の中に液が溜まって腫れている状態です。また、卵巣と思われる部分も異常な感じになっているようです。
以上の所見から、最も疑われるのは「子宮蓄膿症と卵巣の異常(腫瘍かどうかはまだこの段階では不明です)」とお伝えしました。
子宮蓄膿症の治療の第1選択肢は手術です。病気に冒されている子宮を卵巣と併せて摘出する手術(卵巣子宮全摘出術)になります。しかし、この病気は加齢に伴って症状が悪化しやすくなり、また来院時に既に体力を消耗していることも少なくないため、手術や麻酔については慎重な判断が必要です。とは言え、手術を選択しない(できない)場合は抗生物質や輸液などで内科療法に努めるものの、治療に時間がかかり、途中で状態の悪化を招く危険があります。また、次回の発情に絡んで再発することも多いので、やはりできるだけ術前に状態を改善した上で、根治療法である手術を行う方が良いと思います。
この子の場合も、飼い主さんは手術の必要性を理解してくれてはいたのですが、年齢的に手術を受けさせることに不安があり決断できずにいました。これは飼い主さんの気持ちを考えたら無理のないことだと思います。ウチにも老犬・マロがいるので、僕でもできることなら手術を回避したいと考えると思います。しかし、この病気に関しては上記のように内科療法では改善しにくいことが多く、実際この子の場合も徐々に状態が悪くなっていったため、何度も話し合った結果「ワンちゃんのきつそうにする様子をこれ以上は見ていられない」と飼い主さんも手術の決心をされました。
ここからは手術の画像が入りますので、苦手な方はお気をつけください。
手術前に入院し、点滴などで少し状態が良くなったところで手術が行われました。これはその時の写真です。
子宮蓄膿症とは、子宮の中に膿が溜まり、放っておくと死に至ることもある病気です。これは不妊手術をしていない女の子の病気で、特に中・高齢の子や出産経験のない子あるいは前回の出産から期間が空いている子に多くみられる傾向にあります(一方で、まだ2歳という若さでなった子もいます)。また、タイミングとしては発情の後が多く、これは黄体ホルモンの影響で変化した子宮内膜に細菌感染が起きることがきっかけになるからです。
今回の子は陰部からのおりものがみられましたが、中には膿が出ない子もいます。これは膿が作られないのではなく、中にどんどん溜まってしまうもので、むしろ子宮破裂などの危険が高くなります。また、食欲や元気の消失、嘔吐などの症状の他によく水を飲み、おしっこをする「多飲多尿」もよく認められます。
ですので、不妊手術をしていない子で、何か調子が悪いなあと思ったときは念のために子宮や卵巣といった生殖器疾患の可能性も考えておく必要があると思います。
この子は幸い手術が無事に終わり、その後の回復も順調で、今は以前と同じように元気な姿で看板犬として頑張ってくれています☆