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お腹が張ってしまって その2 ~卵巣の腫瘤~

今回のブログは、手術の画像がありますので、苦手な方はお気をつけください。

今回お話するのは、16歳になるごま柴の女の子です。
「ワンちゃんのお腹が張って、きつそうにしており、食べても吐いてしまう」とのことで来院されました。
見ると確かにお腹が緊張感のある張り方をしており、苦しそうです。いろいろとお話を伺うと不妊手術はされておらず、前の年の秋くらいに陰部から出血があったそうです。イヌで15歳というと人でいったら70代半ばくらいですから、これは通常の発情とは言えません。
陰部を見るとかなり腫れぼったくなっており、おりものも出ています。「これは子宮や卵巣といった生殖器の病気である可能性が強いですね」とお話をした上で諸検査をさせてもらいました。すると、お腹の大部分を占める大きな塊(腫瘤)が胃や腸を圧迫しています。超音波検査では、この大きな腫瘤は液体を多量に含んだものでした。

お腹の大部分を占める大きな腫瘤(赤丸)によって、胃や腸(矢印)が圧迫を受けています。

お腹が張ってパンパンです。

これはとても飲み薬や注射で治るものとは思えません。しかし、この子はもう高齢で、心臓もかなり悪くなっているので、手術や麻酔を乗り切ることができない恐れもかなりあります。飼い主さんご夫婦と時間をかけて話し合った結果、「このままでは食べることもできず、苦しいばかりでかわいそうだから」ということで思い切って手術をすることになりました。

ここからは手術の画像が入りますので、苦手な方はお気をつけください。

お腹を開けると、20cm大もある大きな腫瘤がお腹の中を占めていました。子供の頭くらいの大きさのあるこの腫瘤を慎重に取り出してみると、それは右側の卵巣でした。同じく左側の卵巣も異常でしたが、右側ほどは大きくありませんでした。そして子宮も陰部に近いほうがゴリゴリに固くなっており、明らかに異常でした。卵巣が他の組織に癒着していて複雑な状況になっていましたが、出血や血圧の変化に細心の注意を払いながら、無事摘出することができました。子宮の方はゴリゴリがずっと続いていたので、やむを得ず可能な範囲で切除しました。

手のひらと比べるといかに大きいかが分かります。

向かって右の卵巣も正常の卵巣の5倍くらい大きいのですが、反対の卵巣が大きすぎてそのように見えません。

こうして術中・術後も特に変わったことなく、この子は頑張って手術を乗り切ってくれました!

摘出した卵巣は右側だけで2kgもありました。
驚いたことに、病理組織検査の結果は「卵胞性嚢胞」といって腫瘍ではありませんでした。また、子宮の方も「子宮内膜の過形成」といって腫瘍ではない増殖性の変化でした。要するにガン(悪性の腫瘍)ではなかったけれど、卵巣や子宮がどんどん大きくなってしまってあのような状態にまでなってしまったということです。
・・・というわけで、幸いにして腫瘍ではなかったので飼い主さんも安心され、ワンちゃんの術後の回復も順調で、今はすっきりしたお腹で元気にしています!

手術前は、お腹がドテッとしています。

”お荷物”がなくなって、お腹もスッキリ!ご飯も食べられるようになりました。

不妊・去勢手術についてはいろいろな考え方があると思いますが、僕個人は出産させる予定がないのであれば、なるべく若いうちに手術を受けた方が良いと思っています。5~6歳を過ぎる頃から、今回のような卵巣や子宮(女の子)、睾丸や前立腺(男の子)といった生殖器の病気が増えてくるので、歳を取って体力がなくなり、しかも病気になった段階で手術をするよりも、若くて体力のあるうちに手術をする方が良いと思うからです。
もちろん、手術を検討するにあたっては手術・麻酔の内容や不妊・去勢後に起こるかもしれない出来事(太りやすくなるとか、まれに尿が漏れやすくなる、など)、費用などについて納得いくまで説明を受けていただくことが大事なことは言うまでもありません。そろそろ手術の時期かなと思われている方はぜひ一度ご相談ください。詳しくお話をさせていただきます。

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